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完成

0053

学位論文の修正が無事に終わり,完成版をハワイ大学のGraduate Divisionに送った.

やっと終わった.

達成感というよりも「やっと」という気持ちの方が強い.

4月30日の口頭試問(defense)で合格したらそれで終わりなのかと思っていたら,そこからが大変だったからだ. 42.195キロのフルマラソンを完走してゴールしたかと思ったら,いえいえまだ終わりじゃありませんよここからが勝負ですよ,さあもたもたしてないで走るのじゃー駆け抜けるのじゃーあーっはっはっはっはーというまさかの展開が待っていて,ヒーヒーもがきながらプラス10キロくらい走ったような感覚だ. オルテガ先生によると,"defense"とはコミティの先生方からquestionsやsuggestionsやcommentsをもらう場で,それに基づいて思考を深め,そして論文を修正するのが普通なのだということだった. 「博士論文もジャーナルに投稿する論文と同じですよ」と. 

何でもそう簡単にはいかないということだ. 自分の甘さを知る.

私がコミティの先生方から修正,あるいは説明を求められた箇所は大きく分けて7つあった. 自分の今後のためにも,ここに記録として残しておくことにする.

1.Two groups' proficiency levels: 研究参加者を「習熟度」に応じて2グループに分けているが,本研究における「習熟度」の定義とは何か. どのように「習熟度」を測定したのか. 2グループの「習熟度」が異なるという証拠を提示せよ. オッス!

2.Innovative instruction:  本研究のテーマである「ジャンルに基づくライティング指導」とは,従来のライティング指導と比べて,どのような点が"innovative"なのか. カリキュラム,シラバス,そして使用教材,学生のレスポンス等,"innovativeness"の説明,そしてその証拠を提示せよ. ウッス!

3.Coding: Michael HallidayのSystematic Functional Linguistics(SFL)における"Grammatical Metaphor"を本研究においてどうコーディングしたのか. コーディングの手法を詳細に説明し,学習者のデータから具体例を提示せよ. エーッス!

4.Inferential statistics:  本研究の研究参加者は30名であり.量的分析はdescriptive purposeでよい. よって,ANOVAやMANOVAのデータは削除し,代わりに,descriptive statisticsとconfidential intervalsを提示せよ. そして,学習者の変化がビジュアルで分かるようplotsを添付せよ. オイッス!

5.Email writing as genre: 本研究における「ジャンル」の定義とは何か詳細に説明せよ. SFL theoryに基づくと"Email"は「ジャンル」とは言えないのではないか. 「ジャンル」をどう定義したのか,理論に基づいて詳細に説明せよ. ウイッス!

6.Rhetorical awareness:  本研究で強調される"rhetorical awareness"とは,何に対する"awareness"なのか.また,それは"genre awareness"とどう違うのか. この二つの用語をどう定義し,どう使い分けているのか.詳細に説明せよ. エイッス!

7.New Rhetoric:  ジャンル研究における"New Rhetoric"の解釈が適切ではない.  L1 rhetoric & compositionにおける"New Rhetoric"と L2 writingにおける"New Rhetoric"がごっちゃになっており,読者に混乱を生じさせる. L1 compositionとL2 writingにおいて"New Rhetoric"派がどのような位置づけなのか,もう一度文献を読み直し,正確に説明せよ. ドスコイ!

気合いの掛け声を一応つけておいたのは,本当に気合いが必要だったからだ. 京子〜!

本当にこれだけのことを2ヶ月で修正できるのだろうか...

考えると憂鬱になり,defenseが終わった後に見るハワイのサンセットはその美しさが格別だとかいう噂は噂に過ぎなかったことを知った.

1〜7の項目をよく見直してみて気がつくのは,あることを主張するときの「証拠」の不足である. これは提示するデータが不足していることが主な原因だが,先行研究の理解不足,そして単に自分の文章力のなさに起因するところもあった. 

人から指摘されて始めて気がつくことが,まだ自分にはたくさんある. いつも言っていることだが,自分が書いたものを人に読んでもらうことは,本当に本当に本当に大切だし,本当に本当に本当に勉強になるということを,今回もひしひしひしと実感した. 

5月と6月はとにかく1分でも時間ができたら論文の修正に当てた. 通勤の電車の中でもバスの中でもどこに行くにもラップトップを忘れないようにした. この2ヶ月で気がついたのは,意外とこの「1分」が大事なのだということだった. 時間は「ない」と嘆くものじゃなくて「作る」ものなのかもしれない. 

そんなわけで,書き直した博士論文は500ページにも及ぶ大作になった. 読んでくださった先生方は「やめてくれー」と思っておられたに違いない(アメリカの大学の先生はこの時期はoff dutyでありますし). しかし,それでもきちんと修正を読んでくださり,適切なコメントをくださったことに本当に本当に本当に感謝である.

特に指導教授のオルテガ先生には,感謝の言葉が見つからない. 1年目や2年目は先生のことが怖くて,Moore Hall5階の暗闇に現れるモナリザの微笑みとか機動戦士オルテガ(ガンダム)とか言ってしまってごめんなさい. 研究指導を受けるようになってからは,どんな質の低い論文であっても目を通してくださり,少しでも良いものになるようなコメントをくださり,そして,気持ちが前向きになるような励ましの言葉をかけてくださった. 先生がいなければ,博士論文を書き終えることができなかったことはまぎれもない事実だ.

そういうことを,博士論文の"acknowledgements"のページにしたためた. 文章を書きながら6年間のいろいろな出来事が蘇ってきて,あれもこれも,あの人との出会いもこの人との出会いも,全てが今日のこの日のために存在していたことに気がつき,ばらばらだった出来事が実は一本の線でつながっていたことを知ったのである. 低空飛行だったところから少し上空へ上がり,少し高い場所に上がったことで視野が広がり,これまで見えなかったものが見えるようになったような感覚だ. オルテガ先生の力がなければ,上空へ飛び上がることは絶対にできなかった.

これから師匠の手を離れ,一人でやっていくことができるか不安だが,昨日オルテガ先生から届いたメールに

I look forward to being able to remain friends and colleagues, now that you are done with your apprenticing and degree :-)

という一文があり,また力づけられた. 

また時間はかかるかもしれないがさらに上空へ飛び立つことができるよう,7月の幕開けとともに,新たなスタートを切りたいと思います.

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納税通知書について語る

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6月を描写するメタファーといえば「梅雨」と「紫陽花」.そして各市区町村から送付されてくる「納税通知書」である.前者が日本の初夏の情緒を感じさせる美しいメタファーである一方で,後者はその真逆の位置に存在する.封を開けると,そこには美しく印字された数字(納税額)が並んでいるが,その美しさは紫陽花の美しさとはほど遠く,見た人に軽いパンチを食らわし,目の前に星がちらつくような衝撃を与えるのである.私の場合は,年々パンチの威力が高まってゆく傾向にあり,目の前にちらつく星の数も増加の一途をたどっている.チカチカ☆☆.

しかし,今年の場合は,軽いパンチで星がちらつくという程度をはるかに超え,強いパンチでリングの外にズッドーンと,あるいはドッカーンと放り出されたかのような衝撃を感じた次第である.そして,マジですか?マジですか?マジですか?と3回繰り返してしまった上に,東京の女子大生の間で使用頻度の高いあの言葉が自然に出てきてしまったではないか.ありえね〜(=あり得ませんの意).しかし,リングの外でうなだれている私に向かって,日本国憲法第30条が耳元でささやくのである.「納税は国民の三大義務の一つなんですよ,オホホ」.わかりました.

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