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transfer

中間レポート執筆に向けてひたすら論文を読み続ける毎日.

9781853596322_4  Vivian Cook の"Effects of the L2 on the L1"はおもしろかった.

 L1能力とL2能力は別々に発達する能力ではなく,言語間に共通した認知力や学力である共通基底言語能力 (common underlying proficiency) がベースになっているというもの.

 そして,言語習得のプロセスにおいては,L1→L2だけではなく,L2→L1への転移も起こりうる,というもの.

 言語間の転移の問題はとても興味深い.

日本語でおしゃべりが得意な人は,英語でもおしゃべりが得意な人になる確率が高いと思う. たとえば,しゃべりだしたら止まらないという共通点を持ついわゆる「江戸っ子」と呼ばれる東京下町生まれ人たちは,わたしが知っている限り,みんな英語もうまい. 日本語でもうるさいけど英語でもうるさい. 「やかましい一分だけだまっておくれぃ」と思うくらいにペラペラ話す.

それに対して,日本語でおしゃべりが得意でない人は,英語でもおしゃべりが得意でない人になる確立が高いと思う. たとえば,わたしは日本語でもあまりペラペラ話す方ではないので,英語でもペラペラにはなれないのである. 日本に帰ると「長く海外に住んでいるので英語はペラペラでしょう?」とよく言われる. しかし,日本語でもペラペラではないのだから言語が英語になったからと言って急にペラペラな人に豹変することはできないのである. 日本語もゆっくり考えながら話すから,英語でもゆっくり考えながら話すのである. 従って,江戸っ子と呼ばれる友達と会話するときにはわたしの出番はなくなってしまうのである. ひたすら聞くしかないのである. 悲しい. しかし江戸っ子には憧れる. ペラペラになりたい. 

複数の言語を話す人間には共通基底言語能力が存在していることをこの例が表していると思う.

言語能力のみならず,リテラシーにおける転移の問題も興味深い.

リテラシーにも言語間の共通基底リテラシー能力が存在すると言われている. よく引用されるのは,Jim Cumminsの学力言語能力(CALP: Cognitive Academic Language Proficiency)である.

日本語でおしゃべりが上手な人が英語でもおしゃべりが上手なように,日本語で書くのが上手な人は英語で書くのも上手なのかもしれない. が,日本語での文章能力の転移が起こるためには,英語の文法や語彙など英語そのものの力がある程度身についていることが前提となる. 

英語のライティングの訓練が日本語の文章能力に影響を与えたという例もある. 自分もその例だ. わたしは学校教育の中で,日本語での作文指導を受けた記憶がない. 日本の中・高等学校では国語の時間に作文を教えたり文章を書かせたりすることはほとんどない. あったとすれば,「この場面での登場人物の気持ちを30字以内でまとめよ」というやつだ. 登場人物の気持ちをどうやって分かれというのだ. そんなん知らん. そしてなぜ30字以内なのだ. とかよく思ったものだ. 

そんなわけで自分が初めて文章の書き方を教わったのは,大学の英語アカデミックライティングの授業だった. ここで初めて,主張の仕方とか,根拠の示し方とか,論理的な構成とかを教わった. 卒業論文も英語で書いて,それ以来,書くのは英語の方が多くなった. それで文章を書くのが好きになった. するといつのまにか日本語で文章を書くのも好きになっていた. 上手か下手かは別にして. やはりリテラシーも,L1とL2で別々に発達するのではなく,相互に影響を与えながら共通基底能力を構築していくのだと思う.

明日もひたすら論文読みだ.

明日というかこれから先ずっと続くのだが.

どこかにtransferしてしまいたい気もする.

でも逃げる場所がない.

ここでがんばるしかない.

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コメント

ご無沙汰しています。
確かに日本ではあまり文章の書き方ということは学校では習わないですね。私も大学時代のライティングの時間にはじめて習いました。
興味深い本のご紹介有難うございます。時間があるときに買って読んでみます。

投稿: American Mike | 2008年3月10日 (月) 12:53

僕は、もともと、“むにゃむにゃ”しゃべっているので、完全に、それが英語に移っています。だから、発音の悪い英語が、かなり、聞き取りづらくなっている気がします。(今年の夏は、accent reductionのレッスンを取って、少しは改善したかなと思ってます。)

書く方は、高3のとき、まともなランティングの授業があって、ESLの教科書を使っていたりで、かなり、英語で書くことに興味を持ちました。
しかし、日本語の普通の文章の書き方は、かなり違うので、おそらく、英語より下手な文章になるなと思います。まぁ、日本語の本とかを文献で読んでいても、だらだら、ちんたら、うだうだ書いている感じがあって、イライラしてくることがあります。

僕は、transferするなら、the pacific oceanのあるところに行きたいです。浜辺が恋しいです。

投稿: masaki | 2008年3月10日 (月) 19:32

【American Mikeさん】
Mikeさん,こんにちは.お元気ですか.

共通言語基底能力のことをCook先生は"multicompetence"という用語を使って説明しています.このメカニズムについて調べられたらおもしろいなぁと思いますが,リサーチデザインが難しくて頭を悩ませています.学習者の頭の中をのぞけたらいいのになぁと思います.fMRIでもそんなことは無理なのでしょうね...

また本を読まれた感想を聞かせていただきたいです.

【Masakiさん】
Masakiさん,こんにちは.

「日本語の普通の文章の書き方は、かなり違う」というMasakiさんのコメントにとても興味を持ちました.日本語のレトリックと英語のレトリックは同じではないと直感的に思うのだけれど,「どんなふうに違うの?」と聞かれると説明に窮します.恥ずかしながら,これまで出してきた論文は全部英語で,日本語でちゃんとした論文を書いたことがありません.同じ内容の文章を二つの言語で書いた場合,書き方は違ってくるのかなぁ.

浜辺いいですね.ハワイはあまり好きじゃないけどビーチに行って海を見るとなんかほっとします.

投稿: satchy | 2008年3月12日 (水) 19:30

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